展覧会アーカイブス 2017

−金魚のふん−
room1+EX







作家紹介
- 酒井 稚恵
掲載紙
-
「かわいい」とファストと
ふわふわと泳ぐ金魚たち。赤い水玉の子供服で作られている。かわいい色・姿とはうらはらに、着る人を失った衣服のうつろさも漂う。
酒井稚恵は、布のスモッキングによってさまざまな形状の造形作品をつくってきた作家。スモッキングとは、子供服のワンピースの胸からウエスト部分のくしゃくしゃした皺寄せ部分を思い出してもらえばわかりやすいだろうか。布を規則的に重ねたり畳んだりして一針ずつ手縫いし、最後に縫い糸を引き締める。この手作業によって、酒井は水玉や動物プリントの生地から、元の模様とはうって変わった幾何学的なデザインを描く。
同じく布の縫い縮めであるフリルやギャザーもオブジェの造形要素として用いる。女の子の服に添えられた時には愛らしい装飾だが、着られることのないオブジェの上に現れた途端、それらは過剰さと不穏な空気を発する。このように酒井の作品には、「かわいい」素材と手法を用いながら、それに裏切りと拒絶を演じさせる仕掛けがある。2015年にイギリスで開催されたグループ展「kawaii!!!?」展に、西山美なコとともに選出され、日本の「かわいい」表現に込められたアイロニーとウイットを伝える作家の一人となった。
15年から始まった「ファストファッションシリーズ」では、大量生産の格安衣料ブランドをテーマにしている。今回展示されている金魚のオブジェにもファストファッションブランドの子供服が使われているが、さらに初めての試みとして、ブランドの提げ袋、タグ、プライスカードで構成したオブジェやアクセサリーも制作した。黒いリングがいくつも重なったエレガントなネックレスは、タグを留めるプラスチックひもを組み合わせたもの。自作のブラウスは一見、ストライプ模様だが、よく見ると「日本製」という生産地表示シールをびっしり何列も貼りつけてある。
これは新興国で生産されるファストファッションの安さの恩恵をうけながら、メードインジャパン製品をあつく信仰し続ける私たちの心のコスチュームのようだ。「かわいい」の鎧(よろい)で自分の世界を守る少女たちの心性をスモッキング作品に投影したのと同様のメッセージが見える。(沢田眉香子・著述業)京都新聞 2017年7月29日

展覧会備考
−